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名古屋地方裁判所 昭和33年(ヨ)901号 決定

申請人 有限会社オガタ鉄工所 外七名

被申請人 王子製紙労働組合

主文

一、被申請人組合は申請人等又はその委託を受けた者が、春日井市王子町一番地王子製紙工業株式会社春日井工場内へ、申請人等従業員に支給するための食料品及び日用必需品(寝具及び衣料品を含む。)を搬入することを妨害してはならない。

二、被申請人組合において、前項の搬入を妨害したときは、申請人等は、名古屋地方裁判所執行吏に委任して、その妨害を排除するため、適当な方法を講じさせることができる。

(裁判官 西川力一 矢崎健 浪川道男)

(注、無保証)

【参考資料】

仮処分命令申請

申請の趣旨

一、被申請人及びその組合員は申請人等又はその委託を受けた者が春日井市王子町一番地王子製紙工業株式会社春日井工場内へ申請人等従業員に支給するための食料品及び日用必需品(寝具及び衣料品を含む)を搬入することを妨害してはならない。

二、被申請人又はその組合員において前項の搬入を妨害したときは、申請人等は名古屋地方裁判所執行吏に委任して、その妨害を排除するため適当な方法を講じさせることができる。

との仮処分決定を求める。

申請の理由

一、申請人等は申請外王子製紙工業株式会社の委託を受け、その春日井工場(春日井市王子町一番地)の内外において各種の下請作業を行つてゐるものであり、その作業の内容及び作業に従事する人員等は概ね左の通りである。

(一) 申請人丸彦渡辺建設株式会社は工場構内に於ける調材、搬送作業、原木の縦挽、皮剥仕上作業、土建作業等を請負い、通常作業時においては平均三百名の従業員をこれに従事させており、現在百三十名がこれに従事している。

(二) 申請人有限会社オガタ鉄工所は工場構内における機械修繕の請負をなし、通常時においては平均約十五名の従業員をこれに従事させており、現在十一名がこれに従事してゐる。

(三) 申請人合資会社旭鉄工所は工場構内における鳶及び機械修繕の請負をなし、通常時においては平均約二十名の従業員をこれに従事させており、現在十六名がこれに従事してゐる。

(四) 申請人亀甲通運株式会社は工場構内における清掃、雑作業、小運搬等の請負をなし、通常時においては平均約六十名の従業員をこれに従事させており、現在三十二名がこれに従事してゐる。

(五) 申請人春日井電気商会は、工場構内に於ける電気工事内線作業の請負をなし、通常時においては平均約十五名の従業員をこれに従事させており、現在十三名がこれに従事してゐる。

(六) 申請人西沢商会は、工場構内における製罐及びパイプ取付作業の請負をなし、通常時においては平均約六十五名の従業員をこれに従事させており、現在三十五名がこれに従事している。

(七) 申請人大洋海運株式会社は工場構内における薬品、白土の小運搬、及投入作業の請負をなし、通常時に於いては、平均約三十名の従業員をこれに従事させており、現在十五名がこれに従事してゐる。

(八) 申請人安藤電機工業所は工場構内に於ける電気機械の修繕の請負をなし、通常時に於いては平均約十名の従業員をこれに従事させており、現在九名がこれに従事してゐる。

右現在員合計二百六十一名

なお申請人等は大洋海運株式会社を除き、その余はその全仕事量の九〇乃至一〇〇%が王子製紙工業株式会社の下請作業である。

二、申請人等は、今回の王子製紙工業株式会社のストにより、生産の制限乃至ストップに伴う作業量の減少、工場構内との交通に対するピケの増強に伴う作業員等の出入の制限乃至中止、等直接間接に重大な影響を受けて来たのであるが、特に

(一) 被申請人は昭和三十三年九月十四日以降は申請人等従業員の工場構内への出入に就き強力なピケを張つてこれを強力に制限するに至つたが、特に同月十八日頃からは工場構内からの退出は認るが、工場構内への立入は絶対禁止するとの態度をとつた。申請人等が被申請人の斯くの如き態度を是認してこれに従うときは、工場構内に於ける申請人等の従業員は皆無となり、申請人等の請負作業の履行が不能となり、延いては申請人等の王子製紙工業株式会社春日井工場に対する前記の如き依存度から見てその経営に重大なる破綻を来すべきは必至であるので、申請人等はやむなく当時(十八日頃)工場構内にあつた従業員を工場構内に宿泊籠城させるとの非常措置をとつた。

(二) 被申請人はこれに対し、籠城者に対する食糧品の供給を阻止し、食糧攻めにより籠城者の工場構外への追出策をとるに至つたので工場構内への食糧品の搬入を停止してゐた。工場構内に於ける籠城者の食糧品は僅少の手持品により辛うじて生命をつないでゐる現状であるが、此れも九月二十七日一杯を以て皆無となるので、申請人等は業者に委託して九月二十四日午後二時二十分頃から工場構内への食糧品の搬入のため凡ゆる努力を傾けたが、被申請人組合の阻止によりその目的を達しなかつた。次いで翌二十五日午後三時頃から同六時頃まで長時間に亘り申請人等と被申請人との間に食糧品搬入につき交渉が持たれた結果、煩雑な条件のもとに同六時半に至り漸く二百七十食分のみの搬入がなされたが、爾後の搬入については何等の保証も与へられておらない。

(以上は九月二十五日迄の事実に基くものであつて、今後も同様事例は継続的に発生するものと考へざるを得ない)。今後スト解決迄幾日を要するかは予測し難く、秋冷に向ふ折柄、構内籠城者に対する衣料品、寝具等の支給も考慮しなければならないが、被申請人の態度が、構内籠城者の追出を策するにある以上、被申請人がこれに対しても阻止のため凡ゆる手段を講ずるに至るべきは必至である。

三、申請外王子製紙工業株式会社と被申請人とのスト及び此れに関連する紛争により申請人等は前述の通り直接間接に重大な影響を受けるとは云え、申請人等はこれに介入する権能もなく又此れに介入する気持も全く有しない。然し、これと同様に労働争議行為は争議当事者間の行為に限定せられるべきものであつて、積極的行為を争議当事者以外の第三者に加えることは、正当な争議行為の限界を逸脱した違法行為と断定せざるを得ない。特に前記記載の如く籠城者に対する食料品等の支給を阻止するが如きことは、法律問題以前の人道上の問題でもあるのであつて、その理由の如何を問はず違法行為たること一点の疑を容れないところであるのでその排除を求めるため本申請に及んだ次第である。構内滞留従業員に支給し得べき食糧品の底をついた現在に於いては、他の凡ゆる案件に先立つて速かに解決せらるべき急迫した緊急性を要する事案であると考へるので、特別の御配慮により直にその措置を決定して頂くよう申添える。

右申請する。

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